13番目の恋人
 ────あの晩、香坂小百合を送ると言ったのは俺なのだが、そうして良かったと思った。

 新卒ということは23歳くらいか。自分の過去を躊躇なく聞かれるままに話すことに、それは良くないと誰か教える者はなかったのかと思ったが……酒を飲んだこともないのか。彼女に対して何とも違和感を覚えたのは一つ二つではなかった。それと、少しの胸のひっかかり。
 
 送っている途中まで普通に会話が出来ていたというのに……
 急にへたへたと地面に座りこみ、そのまま動かない。信じられない思いで、半ば担ぐように彼女の家へと送った。
 
 こんな状態でも、彼女が自分の家を的確に説明出来たのは幸いだった。
 ……新卒の女の子が住むには、値が張りそうなマンションで、少し驚いたが、俊彦の存在を思い出して、あいつが出してるのかと下世話な事を思った。
 
 送れば帰るつもりだったが、どうしても一緒にいてくれと懇願され、逃げ口実に使った「明日また来るよ」という言葉を彼女は鵜呑みにした。
 あまりにも疑う事のない瞳に、こちらが騙す様な気持ちになり、カードキーを無理に渡す彼女から……止せばいいのに、受け取った。
 
 ──更に、止せばいいのに、翌朝、彼女の元へと向かった。
 
 自分でもよくわからなかった。なぜそうしたのか。

 インターホンを鳴らしても返事のない彼女の部屋にカードで勝手入った。どうかと思ったが、昨日の様子から何かあっては……と。
 
 彼女は、何のことはなく、眠っていたが、一度は起きたのか、昨日の服装ではなく着替えたようだった。その時点で、やはり来るべきではなかったと後悔した。ここまでする必要もないのだと。
 
 俊彦からの電話が鳴ったのは、その時だった。休日に電話がある、それは俊彦とプライベートでも付き合いがあるということで、まだちゃんと関係が切れていないのか、それにまた胸に違和感を感じた。
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