13番目の恋人
 彼女は、道に座りこんた時から記憶がない、と言った。そうすれば、ますます……俺が彼女の部屋に来る意味がなかった。
 覚えていないことにがっかり……している自分に気づいた。
 
 それと、苦言を呈しすぎて、彼女からは夕べ「お父さんみたいですね」と言われてしまったが……
 いくらおっさん臭いと言われようと、覚えていないのなら、何度でも注意しようと思う。彼女の言動には問題があったと。多少……扱いにショックではあるが。
 
 自分の過去を話してしまった彼女から大宮の話しが出て、あの俊彦のリストを思い出した。お似合い……なのかもしれない。年も同じだ。
 
「その、大宮くんとそうなりたいとか、そんなわけでは……ただ、話してしまった男性は私をそんな目で見てはくれないのかなと思っただけです」
「だから、好きになっちゃったら、関係なくなるよ、過去なんてね。……それに、その話しを聞いたのは大宮と、俺も……」
 
 俺……も?
 俺も……聞いたけれど……なんて、何を言うつもりなのか、俺は。
 
 
 俺の過去を聞いたとしても、俺を嫌いになったりはしない。何を聞いても“関係ない”そう言った彼女は……俺を好きなのだと、気づいた。
 
 それから、“自分が結婚するから、そっちも相手を探せ”と俊彦からリストを渡され、ぞんざいに扱われた彼女への、この気持ちはただの同情心だと思っていた。だが、俺の……この気持ちは、胸の違和感は……
 
 好きになっちゃったら、過去は……俊彦とそんな関係だった過去は……関係なくなってしまう。
 
 まさに、そんな気持ちだった。
 
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