13番目の恋人
新卒の一秘書だ。
私の方が立場は下で……どうしたものかと考えあぐねた。

その時、がチャリと静かにドアが開く音がして、俊くんが入ってきた。

「あ、小百合呼んでたの忘れてた……」

ここで『小百合』って……。私も、私だけれど、俊くんも俊くんだ。どう言っていいかわからず、焦ることしか出来ない私に……
「ああ、では出直します」
と、彼は、何かを悟った様な顔をして背を向けた。……えっと、この方、誰だっけ。

「いえ、私が、失礼します! 」
そう言ってその人を追い抜こうとした私に俊くんが
「はは、悪い、香坂さん。そうだな15分後にもう一度ここへ」
「はい」
私は慌てて頭を下げると彼の横を通って部屋から出た。

ああ、しくじった。ここでは俊くんと知り合いなことは隠しておきたいのに。俊くん、彼に何とかごまかしてくれるだろうか。

自分の、席に戻ると自己嫌悪に浸りながら、15分の時間が経つのを待った。
「すみません、万里子さん今常務室から出てこられた方は……」
「営業企画室長の野崎さん」
「え、営業企画室長ですか?」

……ほぼ同じといっていいほど近い場所なのに覚えが無かった。

「出向なのよ、彼」

……なるほど。万里子さんの顔が、覚えてないの?と、言わんばかりのもので、反省した。

「挨拶まだ?」
「はい、申し訳ありません」
「あちらの状況見て、ご挨拶の時間作って」
「はい」

……まずいなあ、大丈夫だろうか。

「常務のところへ、参ります」
万里子さんにそう声をかけ、席を外した。
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