13番目の恋人
それとも、自分と関係のあった女性を俺にまわすのは気が引けるのか。
 
「俺は、小百合が可愛い」
少し寂しそうに俊彦はそう言った。何か彼女と結婚出来ないわけでもあったのか《《俺と同じような》》理由か。会社のトップともなると、色んな人間が寄ってくる。見合いで結婚することが賢明であることを俺はよく知っている。
 
「そうか、俺が知ってる男に関しては問題ないだろう」リストを見て、そう答えた。
「あいつ……見た目で変な男が寄って来やすいからな」
「あー、そうだな、下世話な噂もよく聞く」
「……お前からも少し気にかけてやってくれ、申し訳ないが」
「ああ、わかった」

その話はそこまでで、仕事の話に切り替えた。だが、部屋を出る寸前、俊彦が俺の背中に言った。
「絶対に、手を出すなよ」
「……出すわけないだろう」

まだ、そんな気になれないと言ったばかりだ。俺は振り向く事なく部屋を後にした。……リスト、持ったままだったな。誰かに見られたらまずい、小さく折り畳むとジャケットの内ポケットの中に入れた。
 
 この時の俺にあったのは、彼女への同情心。もうすぐ発表されるあの男の婚約話はもう一度彼女を傷つけるだろう。それでも、会社を辞めずに、秘書を続けるのだろうか。わざわざこの会社で新たに恋人を見つけろとリストを渡され、それでも辞めずにいられるのだろうか。
 こうなるとわかっていて手を出す俊彦にも苛立ちを覚えた。確かに、彼女に見つめられたらその気になる男は多いのかもしれない。それでも、あいつはそうじゃないと思っていた。
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