お題小説まとめ①

レモンソーダのせい

教室の後ろから二番目、窓際の席。私は外を眺めながら溜息をついた。
今日の天気予報は大外れ。晴れマークを信じていたのに、外はすっかりどんよりとしている。先ほどから降り始めた雨のせいで屋外での部活は一時休止となっているようだった。

「せっかく今日はバスケ部が外練だったのに。」

一人呟いて、口をとがらせる。2年に進級して、グラウンドに面した席になってからバスケ部が外練の日は放課後に教室で自習をするようになっていた。クラスが離れてしまった片思いの相手をこっそり見ることができると気づいたから。週に1度だけだけど、ちょっとしたお楽しみだ。

「あーあ。また来週かぁ。」

呟いてから机の上に誤魔化すように重ねた教科書を一冊、また一冊とカバンにしまう。部活がないのであれば残って自習する意味だって全くない。机に出していたおやつのチョコレートもカバンにしまった。
急に廊下が騒がしくなって扉に目を向ける。ジャージを着た生徒たちが何人か笑ったりぼやいたりしながら通り過ぎるのが目に入った。皆、雨に降られたのだろう。ジャージが濡れて色を変えていた。その中の一人とふと目が合った。クラスメイトの岡村だった。岡村がいるということは、ええと、多分テニス部、なのかな。そんなことを考えている間に、岡村は周りに何か言ったあとそのまま教室内に入ってきた。

「いきなり雨降って最悪だよな。」

忘れ物でもしたのかな、なんて思っていたら話しかけられて驚いてしまう。

「あ、うん。」
「何驚いてるんだよ。」

私の様子に目を瞬かせてから岡村が笑う。初めて正面からみた笑顔は目じりが下がっていて意外とかわいい。岡村はこちらに歩いてきてから片付いた机の上をじっと見た。

「何?」
「いや?今日はもう勉強しないんだなーって思って。」
「えっ。」
「毎週水曜。残って勉強してただろ。」

人知れず、のつもりがクラスメイトに気づかれていた。柄にもないと思われていそうで思わず視線を下げてしまう。と、あることに気が付いた。

「何、あんたびしょ濡れじゃん。」
「あー、急に降られたから。」
「タオルは?」
「タオルもびしょ濡れ。」
「まじ?ついてないね。」

肩をすくめる岡村に笑ってからカバンの中を探す。けれども水に対抗できそうなものはハンカチとティッシュくらいしか見つからなかった。

「ごめん、私もこれしかないや。」
「大丈夫。そのうち乾くし。」
「じゃ、せめてティッシュあげる。」

なんとなくひっこめるのも気が引けてポケットティッシュを押し付けると岡村は何がおかしいのか吹き出す。

「お前、水にティッシュって…まぁ、ありがと。」

笑いながらティッシュを受け取り、ふと思い出したようにポケットに手を入れた。

「何?」
「いや、これやる。」

でてきたのは黄色いデザインの缶。レモンソーダだ。昇降口の自動販売機に売られている、100円のやつ。

「えっ、いいよ。悪い。」
「休憩で飲もうと思ってたけど雨降ってちょっと寒いし。もらって。」
「ええ、だってティッシュにジュースじゃちょっと割に合わなくない?」
「じゃあ、なんかおやつちょうだい。」
「何それ。大したもんないけどいいの?」
「チョコがいい。実はさっき見えた。」

意外と目ざとい。笑いながらチョコレートを取り出す。個装されている粒チョコレートを3つ4つ手渡すと、岡村はまた目じりを下げて笑った。だから、かわいいとか思うな自分。

「ありがと。」
「や、こちらこそ。」
「じゃ、俺部活戻るわ。」
「ん、がんばってー。」

手を振りながら見送る。結局あいつ、何しにきたんだろう。そういえば、テニス部も水曜は外コート練だったっけ。ぼんやりと思いながらレモンソーダのプルタブを引く。久しぶりに飲んだ気がするレモンソーダは記憶よりもなんだか甘く感じた。
いつのまにか雨はあがっていた。運動部の生徒たちはグラウンドに戻って練習を再開していた。ならばと再び参考書を取り出しながら、バスケ部だけではなくテニス部が気になってしまったのは、多分もらったレモンソーダが甘かったせい。にしておこう。
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