レインコートもいいけど、傘は必要


 星野は慌てて教室を飛び出し、生徒玄関へ向かう。


 誰もいない生徒玄関で、姫井がレインコートを着ようとしていた。



「まってよ姫井さん、これを使ってほしい!」


 走って駆け寄り、息を切らしながら折りたたみ傘を差し出す。


「そんなの、いらないわよ」



 冷たい返事に、星野はガッカリと肩を落とした。

 その時、姫井がレインコートを脱ぎ始める。

 星野に視線を向け、頬を赤く染ながら恥ずかしそうに小声で話す。



「でも……星野くんが持ってくれる傘だったら、私はその横に入ってあげてもいいわよ……」


「あっ、そうか!自分で傘を持たなければいいんだね!」


「そうよ……私だって、少しずつトラウマを克服したいもの……」



 そう言うと、姫井は恥ずかしそうにレインコートを折り畳んで自分の鞄に仕舞い込む。




 雨の日の放課後

 駅へ向かう帰り道、大きな高級傘に並んで入る星野と姫井。




 水溜まりに広がる丸い波紋、蒸し暑い外気に高い湿度。

 もうすぐ梅雨があけ、夏がやってくる。


 そして、七夕の季節。





 七月七日、天の川で織り姫と彦星が出会う日に



 二人は、恋人同士になった……







 ~fin~


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