新人メイドと引きこもり令嬢 ―2つの姿で過ごす、2つの物語―
《5 裏》
「おい…」

 娘が声に気づいて目を覚ますと、昨晩現れた男がまた来ていて、娘の上に乗っていた。

「!!」

 熟睡のあまり自分は気付かなかったらしい。

「…引きこもっていたそうだな。眠り姫のつもりか…?」

(あの人だ…!どうしよう、逃げられない…!)

 掛けていた布団ごと抱きこまれ、娘は身動きが取れなくなっていた。

「や、止めてください…!!」

 男は娘の顔を覗き込んだ。

「逃げなかったくせに…。傷物にして追い出してやったらどんな…」

そこまで言って、男はそのまま動きが止まった。

「…。」

 薄暗い部屋。
 男はじっと娘を見つめ続け、娘は懸命にその沈黙に耐え続けた。
 男は更に顔を近づけてくる。

「いやっ……」
(キスされる…!?)

 身動きも取れぬまま娘は、強く目を瞑って次の衝撃を待った。

「…なぜ帰らなかった…?」

 男は顔を近づけたままそう言った。

「え…」
(あ…お飾りにされたお嬢様がまだちゃんと屋敷にいるから…)

 娘はまっすぐに男を見て言った。

「…ご主人様にとって、私は居てほしくないんだと思います…ただの飾りだし、私はきっと追い出されます…。でも、花嫁になんかなれなくてもいい、私で役に立てることは無いか考えて、やってみたいんです…」
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