新人メイドと引きこもり令嬢 ―2つの姿で過ごす、2つの物語―
《7 裏》
 シェフを手伝う一日が今日も終わったが、聞かされたあの時からずっと考えていた。

(そんな…じゃあ、もうすぐここに来るだろうあの人は…シェフが挙げなかったあの人は…誰…?)

 身震いがする。怖くて堪らない。
 今度こそ、痛めつけられて慰み者にされてしまったら…

(早く、逃げなきゃ…!シェフや執事さんは近くにいない…もうどう思われてもいい、ご主人様に訳を話して…)

 いつも彼が姿をあらわす部屋の隅から物音がする。
 彼女は急いで部屋を飛び出した。


「待て…っ!!」

 後ろからすでに男の声。

「こ、来ないでっ…!!いやああっ!!」

 娘は走ったが足が震え、そのままへたり込んでしまった。

「リリィ…」

「や、いやあああ…!!」

 男に後ろから抱きしめられ、逃げることも出来ずに泣き叫ぶしかなかった。

「…俺が恐ろしいか…?」

 彼女は怯え男に抱きしめられたまま震えていた。
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