新人メイドと引きこもり令嬢 ―2つの姿で過ごす、2つの物語―
《2 表》
 夜も更けた頃。
 娘は目が覚めてしまい、なんだか眠れなくなってしまった。

(なんだか落ち着かない、どうしよう…。話し相手もいないし…。あ、縫い物でもしよう…!!この部屋には小さくて可愛いテーブルがあるのに、テーブル掛けもないし)

 彼女は小さな声で歌いながら、裁縫を始めた。

「良かった、お母さんに内緒でお気に入りの布と道具を持ってきて」


 少しして、裁縫に集中していた娘は部屋の隅から物音がするのに気づいた。

(…な、なに…?)

 見ると、物音がしていた辺りから突然、人が姿を現した。

「誰!?…いえ…どなたですか…!?」

「…主人のもとに来た令嬢を拝みにな…」

 薄暗い部屋の中、声を聞く限りでは若い男で、彼女にゆっくりと近づいてくる。

「あ、あなたは…?」

「…妙な娘だ…普通の令嬢ならば、男が夜中に部屋に入ってきたんだ、叫び声くらい上げるだろう?」

「あ…。え、え〜と…そ、そんな事より、あなたはどなたですか!?なんでこんな時間に??どうやってここに…」

 近づいてきた男は片目に眼帯、屋敷内で働くには似つかわしく無い、ラフな姿の若い男だった。

「…俺はお前を見張りに来た、ここで働いている者だ…。屋敷には隠し通路くらいある」

「私の見張り?…こんな時間に…??」

 男の姿につい油断し、令嬢らしく振る舞うことも忘れて続けた。

「なぜですか?ご主人様の命ですか?」

「…こんな安部屋に押し込められて、食事もこの部屋で一人でだ。嫌になって逃げ出すんじゃないか、とな」
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