浮気 × 浮気


唇と唇が離れ、陸のやさしい眼差しの中に囚われる。


きっとたくさん泣いたのだろう、…陸の目は赤く充血していた。


「ごめん、最後にキスだけ…したかったんだ。」


呟くように言われたその言葉は儚くて。


「……別れよう、明里」


陸は私に笑顔でそう言い放った。

涙で滲んで、真っ直ぐに陸を見ることが出来ない。

泣きたいのは俺の方だよ、と陸は切なげに私に笑いかける。


「……ごめ、なさい……っ」


陸に何も返すことが出来なかった。私を信じて私をずっと好きでいてくれた陸に。


「明里は、…………本当に好きな人と幸せになってくれ」


陸は私の頭をそっと優しく撫でたあと、一切振り返ることなく、病室を去っていった。


急に静寂を取り戻した病室は、やけに静かで……逆にその静けさが苦しかった。


「……ありがとう」


聞こえるはずのないその声は、シンとした病室に吸い込まれて消えていった。ーー。


.
.
.

< 207 / 236 >

この作品をシェア

pagetop