離してよ、牙城くん。
なにか話をそらせないかと考える。
ひとつ、浮かんだ。
「あ……、そういえば、牙城くんってほんとにその……【狼龍】のトップなの?」
我ながら質問が無難すぎる。
彼が【狼龍】の総長で毎夜、闇に潜んでいるのは知っていることなのに。
どうでもいいことを聞いてきたわたしに、牙城くんは表情を少しも変えずに答えてくれた。
「うん、いちお」
「……いちおう、」
「まあ、ほかのやつらはみんなロン高だし」
「え……。それじゃあ、メンバーは、この学校には総長?の牙城くんだけなの?」
「そういうこと」
驚いた。
わたしの勝手な想像では、トップの人はたくさんの人に囲まれているイメージだったから。
学校に、
たったひとりの、【狼龍】のメンバー。
それって……、あまりそういうことはよくわからないけど、なんだか危なくて不思議な話な気がする。