わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)

01. 橘部長と夫婦喧嘩する

 内定式。総合職百二十五名、一般職三十一名。
 総合職だけだった六月の内々定通達とは違って、十月の内定式は一般職も一緒なので女子も多い。
 そして、式典なので社長をはじめとした重役も揃っている。祝辞のために壇上にいる橘社長と目があって、にっこり笑ってもらい、少しドキドキした。宮燈さんとは別の魅力のある男性だなぁと思った。
 宮燈さんも常務として壇上にいたけれど、相変わらず無表情だった。「本当に偉いんだな。この人、私の夫かぁ」と、物凄く変な気分だった。

 式典が終わり重役が退場すると、横にいた女子学生が囁くように話すのが聞こえた。

「橘部長ってかっこいいよね」
「きゃ、こっち見てる!」

 こっち? と思って彼女らの視線の先に目をやると、重役を見送ったあとの宮燈さんが、扉の側で明らかに私を見ている。
 無表情で。でも綺麗な顔で。

 私は(こっち見んな!)と思って目を反らした。

「ねえ、まだ見てるよ。もしかして私を見てるー? おじさんだけどさあ、橘部長なら全然有りじゃない?」
「有りだね」

 一般職の採用は総合職とは別過程だから、人事部長との接点がほとんど無い。内定式で初めて宮燈さんを見た人もいるだろう。素直にキャッキャッとはしゃいでる同期に何故か胸がもやもやした。


 ……私と宮燈さんは一週間前から喧嘩している。口もきいてない。昨日だって、本当は宮燈さんの家に行くはずだったけれど、私はビジネスホテルに泊まった。原因は些細な事だったけれど、謝る事が出来ず、冷戦状態が続いている。悪いのは私なんだけど……。
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