強引上司は虎視眈々と彼女を狙ってる【7/12番外編追加】
それはわたしだけじゃなく、ここにいる全員が多分そうだった。

往々にして上司の祝辞というのは、失礼ながら固い、長い、いつまで続くのか、という空気になることがほとんどだが、部長のスピーチにはそれがなかった。

見た目も中身も、人を惹きつける才能にあふれた男だ。

とてもじゃないけどトランクスはやだとか言っていた男とは思えないな。

ふふ、とちょっと思い出し笑いしちゃってたら、スピーチを終えて席に戻った部長と目が合った。

部長と私のテーブルは別だけど、私の席はちょうど部長が見える位置だ。

右の口角を緩く上げたその顔に、何笑ってんだ、と言われた気がして。

そのアイコンタクトみたいなことがちょっと嬉かったなんて。

部長には言えないな。


「…なぁ、三好と部長って…」

不意に隣の席の向井にごく小さい声で話しかけられる。

「え?」

隣を見やると、私をじっと見つめる向井がいた。

すると乾杯の挨拶が始まり、皆様、ご起立下さい、と声が掛かる。 

「…いや、何でもない」
 


すっと私から目を逸らした向井が何を言いたかったのか、それが分かるのはそれからもう少し後のことーー。
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