神殺しのクロノスタシス3
「…」

「…ナジュ君、大丈夫?」

ナジュは、自分の覚えていない自分の過去を知らされ。 

しばし無言で、何かを考え込んでいるようだった。

…愉快な過去ではないからな。

ナジュにとっても、俺達にとっても。

やがて。

沈黙の後、ナジュが口を開いた。

「…やっぱり、そんなことがあったんですね」

「…覚えてた?」

「いいえ。でも…精神世界でリリスと話してる間、おかしいと思ってたんです。こうしてリリスと話が出来るようになったのは、ごく最近のことで…。それまでに、ずっと長い旅路があったような気がして…」

「…そう」

「自分が教師をやってる自覚もなかった。そうですか、そんなことがあったから、柄にもなく教師なんて…。…そんなことだろうと思った」

…余程、自分は教師に向いてないと思い込んでるようだな。

皮肉なもんだ。

シルナを押し退けて、生徒から圧倒的支持を受けている大人気教師が。

「この話をしても、思い出せない?」

「自分がここにいることに対して、納得はしました。でも…それ以上のことは…」

思い出せない…か。

「そう…。まぁ、そう上手くは行かないよね」

「…なんか、ごめんなさい」

「君が謝ることはないよ」

思い出せないものは仕方ない。思い出せないのだから。

気合でどうにかなるなら、こんな苦労はしてない。

「まだ目覚めたばかりじゃないか。色々試してみよう。とりあえず紅茶療法を」

おい。

まだ諦めてなかったのか、それ。

すると、そこに。

「こんばんは」

「相変わらず、警備ゆるゆるだね〜。大丈夫?」

「あっ、こら、君達」

「…」

こいつら。

下校時刻を過ぎたら、学生寮から出ちゃいけません、と。

何度言ったら分かるんだ。脱走常習犯、元暗殺者組め。

「君達があまりに夜間脱走するから、分身に夜行性のシルナヤママユガを追加して、見張らせてたのに…!どうやって潜り抜けてきたの」

お前、またそんな新種の気持ち悪、新種の分身を作ってたのか。
 
「あぁ、あの蛾?僕が提灯を灯したら、あっさりそこに群がって行ったから、その隙に」

「えぇぇぇ!シルナヤママユガがぁぁぁ!」

…馬鹿過ぎる。

ってか、分身の癖に、そういう昆虫の習性みたいなのも踏襲してるの?

そして令月は何で、提灯を持ってるんだよ。

無駄に物持ち良いよな、こいつ。

と言うか。

「…何しに来たんだよ?お前達は」

「またまた〜、分かってる癖に」

…すぐりの、その笑顔が腹立つ。

「不死身先生の記憶を取り戻すのに、僕達の話も必要かなと思って」

「それなのに、全然俺達の話をしてくれないからさ〜。これはもう、自分達で言うしかないなって」

…何だと?

「…お前ら、聞いてたのか?」

さっきまでの、一連の会話を。

「気配を消して、学院長室の前で立ち聞きしてた」

「…」

さらっと、とんでもないこと言いやがる。

本ッ当に…無駄に技能が高いんだから、こいつらは…。

監視の目を掻い潜ること、施錠されてるはずの建物に侵入すること。

気配を消すこと、盗み聞きすること。

こんなことばっか得意なんだから。

「…何処から聞いてた?」

「え〜?『八千代』、何処からだっけ?」

「『やぁナジュ君!いらっしゃい!』の辺りから」

学院長室に入ってすぐかよ。

何処で待機してたんだお前ら。

さては、ナジュを連れて校内を案内している最中から、尾行してたんじゃなかろうな。

有り得る。

考えるだけで末恐ろしいから、聞かないけどさ…。
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