Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―

「それほどでもないさ。ただ、このままだと相続人ゼロの状態ということで土地も君が守りたいピアノもぜんぶ、国庫行きになる可能性も……ってそれは最悪の場合だよ。遺言書があれば問題ないし、見つからなくても家庭裁判所へ申請することでネメちゃんが遺産を相続することはそう難しくない」

 内縁の妻の定義には同居期間が最低でも三年程度は必要とされているという。わたしと夫は三年弱、ともに過ごしている。実態は夫婦だったけれど、役所に婚姻届を提出していない場合、法律上は夫婦ではなく、事実婚関係にあたるのだから、どっちにしろわたしが動くことで彼が愛した土地とピアノを守ることはできるらしい。
 けれど、次々に教えられる法律知識を前に、わたしのあたまはパンク寸前だ。

「ごめんなさい、あたまのなかこんがらがってきちゃいました……」
「いや。俺の方も憶測だけで盛り上がっちゃったから……そうなると、別の意味で厄介な問題が起きそうだから」
「?」
「よし、やっぱりネメちゃん、結婚しよう」

 そう言ってがしっとわたしの両手を掴んだ紡は、畳み掛けるように「結婚」の言葉を口にする。
< 139 / 259 >

この作品をシェア

pagetop