Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―

「アキフミ」
「事実だろ」
「だけど」

 わたしが紡と結婚すると言ったわけでもないのに、彼は憔悴しきった表情でわたしを見つめている。何を言っても拒まれそうで、これ以上口にできなくなる。
 すると、アキフミが乾いた笑みを浮かべて、わたしの身体を抱き寄せる。壊れ物を扱うように、そうっと懐に入れて、軽く口づけをしてから、彼は告げた。

「……東京で、見合いさせられた」
「誰が?」
「俺が」

 俺はネメじゃないとダメなのにな、と淋しそうに呟いて、わたしの身体の線を服越しになぞっていく。応接間で抱かれたことはないけれど、このままだと先程まで紡が座っていたソファに押し倒されかねない。わたしはイヤだと首を振るが、アキフミは自分の劣情を抑えられず、わたしが着ているワンピースの前ボタンをひとつ、またひとつと外しはじめる。

「ダメ」
「ダメじゃないだろ。愛人になるって言ったのはお前だ。お前が紡と仲睦まじく語っているのを見た俺が、嫉妬していないわけがないだろう」
「ンっ」
「いっそのこと、この場で孕ませてやろうか……そうしたら、俺とはなれることなんか、できないもんな?」
「それは、いけません……未来の奥様に」
「俺にとっての未来の奥さんはお前だけだって、何度言ったらわかる?」
「きゃっ……」
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