Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―

   * * *


 葬儀は必要ないと口を酸っぱくしていた夫だったが、添田が事前に手配していた教会の牧師によって葬儀式が淡々と進められていった。臨終の聖餐式の後は末期の水とり、それから遺体を清めた後に祈りとともに行われる納棺式……
 遺体には白いガウンをかけられ、白い花で包んだ彼の身体を自分たちの手で棺へ納めた。黒い布で覆われた棺には白い花で作られた十字架が飾られた。そのままなだれ込むように屋敷の人間のみで前夜祭が行われ、賛美歌の斉唱と聖書朗読、そして故人を偲ぶ想い出話をして、慌ただしい一日が過ぎていった。
 敬虔な信徒ではないと夫は言っていたが、牧師がいうには、むかしから礼拝に訪れていたという。彼は教会のパイプオルガンで賛美歌の演奏もした経験があるんだとか。三年近く一緒に生活していたというのに、わたしは夫のことを知らないままだったのだなと、呆れてしまった。
 こんなにもわたしを守っていてくれたのに。

 翌日もわたしがはじめて軽井沢に降り立った際に連れて行かれた教会で、葬儀式のつづきが行われた。仏教式でいうと昨夜の前夜祭がお通夜で、今日が告別式になるわけだ。
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