Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―

 死別後の再婚……考えたこともなかった。もし、あのとき婚姻届を差し出されていたら、わたしはアキフミの名前の隣に自分の名前を記しただろうか。

「あの」
「奥様は、喜一さまの遺言書をご存知でしょうか」
「遺言書……?」
「ええ。いつか死ぬ死ぬといいながら、三年近く貴女さまを煩わせていた旦那様です。貴女宛にも遺言書をしたためたとおっしゃっておりましたが」
「それ、初耳よ?」

 遺言書があるなんて、知らなかった。死んだら添田がどうにかしてくれるとだけ言っていた夫が、わざわざわたしに遺す何かがあるなんて。

「旦那様は奥様に宝探しをしていただきたいのでしょう。屋敷ではないところに隠したとのことです。心当たりは?」
「あるわけないでしょう? どうして今まで黙っていたのよ!」
「旦那様の納骨が終わってから、ゆっくりお話しようと考えていたのですが、紫葉さまが」
「アキフミが、何?」

 遺言書にもアキフミが関わっているの? 思わず身を乗り出して机の上の湯呑を倒してしまったわたしは「熱ッ」と悲鳴をあげる。右手を火傷したかもしれないと、添田に洗面所で応急処置するよう促され、慌てて部屋の扉を開ければ。
 そこには用事を終えたアキフミがいた。
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