私の知らない恋の話。
失礼します、と元カレの手を振り払って俺のところに来るなぎ。
俺はその手を握る。


「大丈夫……?」
「……ん、大丈夫。気にしないで。……聞かないで」
「聞かない。なぎの嫌がることしない」
「うん」


本当はすごく気になるけど、泣きそうな顔で俺の手を握るなぎのこと見てたら、ひとまず何か起こる前で良かったと、つくづく思う。


一度2人で、他人の少ない、昇降口近くの階段に腰を下ろして、ぼーっとグラウンドを見ていた。


「……ごめん、ありがと。落ち着いた」
「いーよ、なんか。……見たことない顔してた」
「まぁ。あの人以外に嫌いな人間いないってぐらい嫌いだからね」


なぎは下を向いて、足を投げ出していつも通りの顔。


「お詫び。何してほしい?」
「前川のリレー見ないで、俺と一緒にいてほしい」
「即答だね」
「うん」


なぎはフッと笑って、今日だけ、と笑う。


「……いつも、になりたい」
「頑張って」
「……頑張る」


なぎはずっと俺の隣にいてくれた。
賑やかだねー、なんて呑気な顔して、ぼーっとグラウンドの方を見ていて。
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