スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない
本当は知っている。
会社という狭い組織において、女性には女性同士の独特の世界が存在する。それは愚痴り合い、励まし合い、協力し合ったかと思えば、次の瞬間には陥れ合い、足を引っ張り合うという男性同士の人間関係とは様相の異なる――言ってしまえば理解に苦しむ世界だ。
当然、女性の世界へ男性が介入することは許されない。下手に手を出せば事態を膠着させてしまったり、逆に状況が悪化してしまったりするものらしい。
陽芽子が鳴海の反応を過度に気にするのも、そういう事情が関係しているのだろう。あのとき素直に『鳴海から嫌がらせを受けている』と教えてくれなかったのも、女性特有の世界が少なからず関係していることは窺い知れた。
啓五がそれに気付いたのは、鳴海の嫌がらせが露呈した後に入念な聴取と調査を行ったから。加えて、叔父からのわかりにくい助言を思い出したからであるが。
ソファから立ち上がり、作業をしている鳴海に近付く。そのままデスクへ腰を預けるよう寄り掛かると、
「俺の奥さん、可愛いだろ?」
なんて、まだ婚姻届けの提出はしていないのに、わざわざ神経を逆撫でする言い方で問いかける。
啓五の長身に阻まれ蛍光灯の明かりが陰った場所で、鳴海が再び動きを止めた。彼女の視線はディスプレイを注視しているが、動きは全く感じられない。恐らく思考も停止してしまったのだろう。その様子を確認しても、話は構わずに続ける。
「この世に絶対なんて存在しないと思うんだけどな」
「……え?」
意味がわからなかったらしい。首を傾けて啓五の顔を見上げてきた鳴海に、フッと笑みを返す。
鳴海は、一般的には可愛らしい女性だと評される外見をしている。清楚で愛らしい印象を相手に与えるよう、よく計算し尽くされている。自分の生まれ持った長所や能力を熟知して生かせる点は、間違いなく彼女の強みだろう。