スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない

 しかし本音を言えば、それは啓五にはどうでも良い要素だ。最低限の身だしなみを整えてきっちり仕事をしてくれれば、重役秘書に特別な可愛さや美しさが必要であるとは思わない。即ちそれは、啓五の秘書が鳴海である必要はないと言う意味だ。

「でもこれだけは『絶対』だって言える。……俺は、陽芽子を傷付ける奴は『絶対』に許さない」

 低い声で淡々と語った意味を察したのか、鳴海の顔からサッと血の気が引いた。メイクをしていればその下の温度変化などわかりにくいはずだが、彼女は目を見開き、明らかに青ざめていた。

 啓五も理解している。女性同士の特有の世界に、男性が口を出すと余計な軋轢を生むことになりかねない。

 殊に恋愛事情が絡むと厄介さが増大すると言うのも頭ではちゃんと理解している。だから仮にその現場を目撃したとしても、極力介入はせずに状況を静観し、社員本人たちに解決させるべきと言うのが基本姿勢ではある。

 しかし、陽芽子だけは別だ。
 だからこれも、鳴海に対する牽制。
 第二段階。

「簡単に逃げられる、許されると思われても困る」
「……!!」

 啓五はどんな状況であっても陽芽子を最優先する。陽芽子が悲しんだり傷付いたりするような事があれば、相手が誰であろうと絶対に容赦はしない。

 それが例え、男性の介入を厭う女性の世界でのやり取りであっても、暗黙の秩序を乱そうとも、多少強引な方法になっても、徹底的に追い詰める。逃がさない。許さない。

 鳴海の瞳を見つめ返すと、唇がわずかに震え出し、瞳の奥に恐怖の感情が走った。本人も無意識だろう、蚊の鳴くようなか細い声で『……はい』と返事が零れた。

 降伏の合図だ。カタカタと震え出して俯いてしまった彼女に反逆の意思がないことを確認すると、啓五も纏っていた怒気を払った。
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