スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない

 陽芽子のその認識はあながち間違っていない。いつもの鳴海ならば、こんな単純作業など一瞬で終えられていたはず。

 けれどそれに関して陽芽子が気にすることはない。『私情を持ち込んで相手の業務を妨害することがいかに迷惑な行為であるか』を身を持って味わうよう仕向けたのは、他でもない啓五だ。

「鳴海に『悪いことした』なんて思う必要ないだろ。あいつは陽芽子たちにもっどひどいことしたんだ」
「それとこれとは別問題でしょ」
「……陽芽子は優しいな」
「え? バカにしてる?」
「違うって。惚れ直したんだよ」

 啓五の説明を聞いてもあまり納得していないらしい陽芽子は、不服そうに頬を膨らませている。その頬を指先でむにっと摘まんで笑うと、今度はそっぽを向かれてしまった。その可愛い抵抗に尚更笑みが零れてしまう。

 しかし本当に、陽芽子が気にすることなど何もないのだ。何故なら今日、鳴海が副社長室にいる状況で陽芽子を呼び出したのは、別の打算(りゆう)もあったから。

 啓五の調べた範囲だと、鳴海と仲がいい同期の女子たちは皆かなりの噂好きだ。

 だから鳴海に『副社長は婚約者を溺愛している』と見せつけることで、鳴海の口から女子社員の間にその様子が伝わって欲しかった。最終的にその話が社内中に広がってくれれば、陽芽子に近付く男性社員は確実に減るだろう。

 陽芽子本人は自分に興味をもつ男なんていない、と本気で信じている。けれどそれは、今までの陽芽子が『毒りんごで死なない白雪姫』だとか『お客様相談室の魔女』だとか悪意のある噂に包まれていたからだ。

 副社長である啓五と婚約したことを公表した今、これまで目立たなかった彼女は良くも悪くもすべての社員の関心の的になるだろう。
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