お前さえいなければ
アヤメはゆっくりと鏡台の前に立つ。そこに映し出されるのは、世間が想像するような「理想のお嬢様」とはかけ離れた自分の姿だ。

目は小さな一重でどこか腫れぼったく、肌は農家のように焼け、唇は薄く、体も華奢という言葉からは程遠い。お世辞にも美人とは言えない容姿だ。

こんな地味な女が名家の娘なのか、と社交の場で言われることも珍しくない。でも名家の血を引いていることに変わりはないため、アヤメは嫌でも社交の場に出なくてはならないのだ。

「もう嫌だな……」

ただでさえ、地味な容姿のせいで傷付いているのに、この家はアヤメの心をさらに抉るのだ。

それは、妹であるミヤコの存在である。



舞の練習場である舞殿へアヤメが行くと、すでに舞の先生とミヤコがいた。扉を開けてその姿を見た刹那、アヤメの目はミヤコに釘付けになる。

艶のある美しく長い黒髪に、大きく開かれた二重の目、ぷっくりとしていて吸い付きたくなってしまう赤い唇に、華奢な体ーーー。アヤメとは正反対に華やかな顔立ちをしているのが、実の妹であるミヤコだ。
< 2 / 14 >

この作品をシェア

pagetop