助けてください!エリート年下上司が、地味な私への溺愛を隠してくれません
声をかけてきた彼女の制服は、WEBサイトでよく見かけるもの。

間違いない。
彼女はこの会社の社員だ。
下手に僕のことを知られて、変に社内に広められても困る。

「……大丈夫……ですから」

一旦この場から立ち去ろうか。
約束があるわけではない。
電話やメールでのアポはすべて拒否されていたので、一度仕切り直しをした方が良いだろうか。

……逃げてしまおうか……。

その時、さあっと急に血の気が引いていく感覚がした。

これ、倒れる。

すると、いきなり彼女に腕を掴まれ、建物の中に連れ込まれた。
何が起きたのかわからないまま、空調がきいたエントランスに入った。
かと思うと、そのまま、入り口近くに置かれている、見ただけで質が良いものとわかるソファに座らせられた。

そういえば、緊張のあまりここ数日間まともに食事を取っていなかったかもしれない。
そのせいで貧血になったのか……。
こんな大事な時に……。
そんな風に焦っていると、首元に冷たい何かがあてられた。

それはラムネの瓶。
しかし一般的なブルーの瓶ではなく、「カレーラムネ」と書かれているラベルが貼ってある、黄色い瓶だった。

「良ければ、使ってください」
「あ……はい……」

そのひんやりとした冷たさが、心地よくて、徐々に思考力を取り戻していった。

ん?
使うとは……?
飲み物だから飲めという意味なのか?
それとも水で濡らしたタオルと同じように、頭を冷やすために使うべきなのか……?

いや、そもそもだ。
見たところ、彼女は大量に飲み物を抱えている。
腕時計は、15時を少し過ぎている。
おそらく所属している組織の買い出しを代表で行ってきたのだろう。
袋を見ると、チョコレートや栄養ドリンクなど残業のお供として鉄板のものも多くある。
このたこ焼きラムネ、という謎の飲み物も誰かから購入を頼まれたのかもしれない。もしかすると彼女自身のかも……。

「……お返しします……」

僕は、ラムネを突っ返すという選択をした。しかし

「嫌です」

と、彼女に断固拒否されてしまう。

「どうして」

僕が尋ねると、彼女から全くの予想外の回答が返ってきた。
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