薄氷
鋭いひとだ。外来の際には、その洞察力が診察に役立つこともあるだろう。

「…高校生のときに両親が離婚して、人並みに苦労はしたので。そのせいかもしれません」

まったくの嘘ではない口上を述べて小さく頭をさげると、医局を後にした。

感情のスイッチの切り方なら、高校生のときに体得したのだ。
とある地方都市の、旧家の離れの一室で。

通用口から表に出ると、夜勤明けの目に朝の陽がしみる。まばたきをすると、やすりでもかけられたように痛んだ。
サングラスが欲しいなと思っては、芸能人気取りに見られそうだし、とためらう。
そんなことの繰り返しだ。

通勤する人の流れに逆らって駅への道を歩きながら、竹原との会話を反芻する。

大学を卒業して、都内の総合医療センターに看護師として勤務するようになって四年目。
もう、なのか、まだ、なのかそれだけ経ったのだ。

進学のために志深を離れたときから数えると、八年近い歳月だ。
振り返るとき、いつもそこを起点にカウントしてしまう。

志深から、彼から離れたとき———
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