薄氷
それなのに———なぜあの場所に、彼に、囚われたままなのか。

ついにためらいながら、彼の名前をネットの検索バーに入力してしまったのがちょっと前のことだ。
忘れるのが難しいなら、いっそ向き合ったほうがいいのかもしれない…。もっともらしく自分に言い聞かせて。

陽澄の元カレ(といっていいのか)の名前はかなり珍しい。おそらく日本に一人しかいないだろう。

《佐澤洸暉》
ヒットがなければそれでいい…そんな揺れる気持ちを弄ぶように、あっさり検索結果が並んだ。

クリックしてみると、個人で発信しているSNSの類いではなかった。メディアに掲載されているのだ。

彼が、いつのまにか…呆然と画面を眺めながら、それでも情報を追う指は止まらなかった。

数日悩み迷って、結局一冊の雑誌をネット書店で購入した。
デザイン専門誌(そういったものがあることを初めて知った)だった。

表紙にクレジットされた彼の名に、目が吸い寄せられる。
動悸を自覚しながら、思い切ってページをめくった。

かなりみっちりボリュームが割かれた特集になっており、書き手の熱量が伝わってくる内容だった。
< 122 / 130 >

この作品をシェア

pagetop