薄氷
開けて目を見張る。木箱に納められ、一つひとつ和紙でくるまれた柿があることを初めて知った。
艶やかでかすり傷ひとつない黄金色の肌をみせるそれは、陽澄が知っている柿とはまるで別物だった。
父の事業がまだ羽振りがよかった頃でさえ、こんな高価な果物を口にしたことはなかった。
とろけるような果肉を、夕食後に三人で玩味しながら、志深にきて母の表情に色彩が戻るのを初めて見たような気がした。
(自分に似て)器量のいい娘は、さっそく佐澤の総領息子を射止めたのだ、とでも信じているのか、あるいはそう信じたいのか。
痴話喧嘩で泣いてしまった娘を自宅に送り届けて、引きこもったら心配して迎えにきてくれた、とでも。
はかない幻想だ。だけれど、母も自分も傷つける現実よりは、幸せな夢に漂っていられるなら、そのほうがいいのかもしれない。
好きな食べ物ってあるの、とだからリクエスト通りに、ある日の昼休みに彼に訊いてみた。
「好きな食べ物?」
隣から怪訝なまなざしをよこされる。
「お母さんがね、訊いてきてって」
「…特にない」
たしかに食に淡白そうだ。
艶やかでかすり傷ひとつない黄金色の肌をみせるそれは、陽澄が知っている柿とはまるで別物だった。
父の事業がまだ羽振りがよかった頃でさえ、こんな高価な果物を口にしたことはなかった。
とろけるような果肉を、夕食後に三人で玩味しながら、志深にきて母の表情に色彩が戻るのを初めて見たような気がした。
(自分に似て)器量のいい娘は、さっそく佐澤の総領息子を射止めたのだ、とでも信じているのか、あるいはそう信じたいのか。
痴話喧嘩で泣いてしまった娘を自宅に送り届けて、引きこもったら心配して迎えにきてくれた、とでも。
はかない幻想だ。だけれど、母も自分も傷つける現実よりは、幸せな夢に漂っていられるなら、そのほうがいいのかもしれない。
好きな食べ物ってあるの、とだからリクエスト通りに、ある日の昼休みに彼に訊いてみた。
「好きな食べ物?」
隣から怪訝なまなざしをよこされる。
「お母さんがね、訊いてきてって」
「…特にない」
たしかに食に淡白そうだ。