薄氷
「ヒズミの家で出てくるものは旨い」
それを聞いたら、母と祖母が喜ぶだろうなと思った。
晴れている日は屋上で、天気が悪い日は内階段に並んで座って、二人で昼休みを過ごす。
これといって会話をするでもない。
洸暉はとにかく無口だし、陽澄もあえて話がしたいとは思わない。
ただ彼が隣に座っていることに慣れている自分が不思議でもあった。
セーターをはおる日が増えてきた。
冬はさすがに外で食べるのは無理だから、内階段で食べることになるのかとぼんやり思う。
自分の意思に反して体を合わせることに比べたら、隣で昼を食べるくらいなんてことはない。
やっぱりしんどい、と佐澤家の離れに連れてこられるたび、思うのだ。
シワになる、と初めて服をすべて脱がされたとは、またも人としての尊厳を剥ぎ取られたような恥辱を味わった。
彼はシンプルな快楽を得られるのだろうが、こちらとしてはかきたくもない汗をかいているのだ。
帰宅前に、なけなしのお金で買った制汗スプレーを全身に吹き付けていると、「シャワー浴びる?」と訊かれたが、首をふって断った。
一秒でも早くこの場から去りたい。
生け簀の魚みたいなものかもしれない、と自転車の後ろで揺られながら思った。
餌はきちんと与えられ、健康状態も管理されている。
ただ相手の望むまま食べられる運命。
逃げる場所はない。
目の前の背中を見つめながらそれでも、広い海に行けたらな、と小さく願う。
それを聞いたら、母と祖母が喜ぶだろうなと思った。
晴れている日は屋上で、天気が悪い日は内階段に並んで座って、二人で昼休みを過ごす。
これといって会話をするでもない。
洸暉はとにかく無口だし、陽澄もあえて話がしたいとは思わない。
ただ彼が隣に座っていることに慣れている自分が不思議でもあった。
セーターをはおる日が増えてきた。
冬はさすがに外で食べるのは無理だから、内階段で食べることになるのかとぼんやり思う。
自分の意思に反して体を合わせることに比べたら、隣で昼を食べるくらいなんてことはない。
やっぱりしんどい、と佐澤家の離れに連れてこられるたび、思うのだ。
シワになる、と初めて服をすべて脱がされたとは、またも人としての尊厳を剥ぎ取られたような恥辱を味わった。
彼はシンプルな快楽を得られるのだろうが、こちらとしてはかきたくもない汗をかいているのだ。
帰宅前に、なけなしのお金で買った制汗スプレーを全身に吹き付けていると、「シャワー浴びる?」と訊かれたが、首をふって断った。
一秒でも早くこの場から去りたい。
生け簀の魚みたいなものかもしれない、と自転車の後ろで揺られながら思った。
餌はきちんと与えられ、健康状態も管理されている。
ただ相手の望むまま食べられる運命。
逃げる場所はない。
目の前の背中を見つめながらそれでも、広い海に行けたらな、と小さく願う。