薄氷
同時に、この部屋で気を抜いている自分に驚いてもいた。
刑の執行を待つがごとく張りつめて怯えていた頃はどこへいったんだと、なかば呆れながら「知らない本ばっかり」と口は答えている。
「外国の本が多いんだね」

ああとも、うんともつかないつぶやきが返ってきた。
「ここじゃないどこかの話がいい」

「読みやすいのあるかな」見上げて尋ねる。

彼はわずかに眉を寄せて思考を巡らせるように本棚をながめ渡すと「SFとか?」と口にした。

SFははたして読みやすいジャンルに入るんだろうか。
とまれ、本を貸してくれるというなら、借りるにやぶさかでもない。
娯楽の乏しい田舎町で、ネット回線すら引いていない家に住んでいるのだから。

彼が選んだのは、アイザック・アシモフなる作家の一冊だった。

借りて帰り、自室であるいは一人で過ごす教室の席で、読み跡のある文庫本のページを繰る。

惑星間で繰り広げられる銀河帝国の興亡を、半分理解できないまま読みながら、これを自分に貸した少年のことを考えずにいられない。
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