薄氷
基本的に、というか発展的にも無口で、自分について語ることが皆無な洸暉は、いつまでたっても掴みどころがない存在だった。

断片的な事柄を、主に彼の私室で拾うくらいだ。

一人で過ごす時間の多くを、おそらくは本を読んで過ごしているのだろうと、蔵書の量から察せられた。

向こうが帰宅後の一服をしているあいだ、本棚を漫然とながめて時間をつぶす。
しだいに本の題名をなぞるのが習いになった。

ローテーブルに肘をついて、目を走らせる。
海外の聞いたことのない作家の本が多かった。
ガルシア・マルケス『百年の孤独』、マーガレット・アトウッド『侍女の物語』、サミュエル・ベケット『モロイ』…

知らないな、しかし難しそうな本ばかりだ。

アリステア・マクラウド『冬の犬』…なんだか寂しそうな題名だな。

読みたいやつある? と斜め上から、声が降ってきた。

いつのまにかタバコを吸い終えた洸暉がそばに立っていた。ぼうっと本棚をながめていて気がつかなかった。
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