好きになってもいいですか? ~訳あり王子様は彼女の心を射止めたい~

親なる者…空

夕食が終わって礼からの電話があり、すでに飲んでしまった俺は車の運転ができなくなっていた。

「わかった、すぐに行くから」
そう言って電話を切ったものの、困った。

タクシーを呼ぶかぁ、それでもこの時間はかなり混んでいそうだし。
電車って選択は・・・最悪そうするしかないのかなあ。

「送って行くぞ」
「へ?」
耳元で聞こえたおじさんの言葉が、とっさに理解できなかった。

「川田さんの所に行くんだろ。送ってやる」
「いや、でも」
「お前は飲んでいて運転できないだろうが」
「それはそうだけれど」

「行くぞ」
とおじさんはキーを持って玄関に向かった。

「ちょっと待ってください」

送ってもらえるのはすごくありがたいけれど、何か嫌な予感がする。

「おじさん、何か余計なことしようとしていませんよね?」
我慢できずに、靴を履こうとしているおじさんの腕を引いた。

おじさんって、仕事においては妥協を許さない鬼上司。でも、プライベートではお調子者でいつも面白いことを言って周囲を笑わせる。
知らない人間から見ればただの楽しいおじさんなのだが、本当のおじさんを知っている俺は素直には見ていられない。

この人はこう見えてすごく頭がよくて、人の心情に敏感で、かけひきが上手い。
礼に何か余計なことを言うんじゃないかと、心配なんだ。
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