好きになってもいいですか? ~訳あり王子様は彼女の心を射止めたい~
「おじさま、支度が整いました」
「そう、それじゃあ帰ろうか」
「はい」

おじさまも遥も一見普段と変わらない顔をしている。
もめている様子はないし、怒りのオーラも感じられない。
もしかして、さっきの声は空耳だったんだろうか?
私はそんなことを考えながら二人を見た。

「萌夏、大丈夫?」
ソファーに座っていた遥が立ち上がって私の肩を抱いた。

「ぅ、うん」
おじさまも山本さんもいるのにと、動揺が声に出た。

どうしたんだろう、遥らしくない。
人前でこんな行動をする人ではないのに。

「遥くん、萌夏ちゃんが困っているよ」

えっ。
おじさまの声に私の方が反応しそうになった。

一体どうしたの?
遥も遥らしくないし。おじさまもいつもと違う。
この二人どこかおかしい。

「創士様、お願いいたします」
ドアの向こうから侍従の声。

「はい」
おじさまは静かに返事をして、私に近づく。

「萌夏ちゃん、先に戻っているからね。しばらくは忙しくて会えないだろうから、ちゃんとお別れをしてきなさい」

これから通夜告別式。そのあと一定期間喪に服する期間があって、自由に外へ出れるのはだいぶ先になるらしい。
つくづく不自由な生活だと思う。

「遥くん、じゃあまた会いましょう」
遥の方を向いてにこやかに言うおじさま。
「はい」
一方遥は感情のこもらない声で短く返事をしただけだった。
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