好きになってもいいですか? ~訳あり王子様は彼女の心を射止めたい~
「萌夏さま、20分後には出発しますので」
そう言って山本さんは部屋を出て行ってくれた。


遥と2人になった室内。

「ねえ、今の遥おかしいよ。いつもの遥じゃない」
ギュッと抱きしめられた状態のまま、私は遥に尋ねた。

「そうかな?」
「そうだよ、らしくない」

いつもの余裕が感じられないし、すごく辛そう。
こんな遥見たことがない。

「らしくないか、そうかもな」
「おじさまと何かあったの?」
「うん、あった。でも、一言では言えない」
「そう」

それ以上聞くことはできなかった。
こんなに苦しそうな遥ははじめて。
一年前事件に巻き込まれた私がケガをしたときだって、怒ったりはしていてもこんなに傷ついた顔を見せることはしなかった。

「落ち着いたらきちんと話すよ。萌夏は今、おばあさまのことだけを考えていたらいい」
「うん」

たった一ヶ月しか側にいることができなかったけれど、私は孫としておばあさまを見送りたいと思っている。
亡くなったお母さんの分もしっかりと心を込めて。

「萌夏」

ん?
名前を呼ばれて頭を上げた。

「遥?」

見上げた先にある遥の顔を見て驚いた。
真っ赤に充血した目に涙が溜まっている。

嘘。
遥が泣くなんて・・・

「何も聞くな」
震える声で言われ、私はうなずいた。

「いいか、お前の家は平石の家だ。必ず戻って来い」
「うん」

「俺は絶対に、お前を手放さない」
「私も遥から離れない」

苦しそうな遥を見て、自分まで苦しくなってしまった私。
どんなにあがいても私は遥が好きで、これは運命なんだと実感した。
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