好きになってもいいですか? ~訳あり王子様は彼女の心を射止めたい~
宮邸に帰ってからは本当に慌ただしかった。

入棺。
通夜。
葬儀告別式。
その間にも小さな行事が山のようにあり、一日中お客様の対応をして過ごした気がする。
まだ正式に宮家の人間と認められたわけでない私が表に出ることはないものの、常におじいさまの隣に付き添っていた。
気丈に振る舞っていらっしゃるおじいさまもお年のせいか疲れが見えて、私はそばを離れることができなかった。



「おじいさま大丈夫ですか?お疲れが出ませんか?」

大きな儀式が終わりやっと一息ついたのは一ヶ月ほど後。
疲労の色が見え出したおじいさまに声をかけた。

「大丈夫。萌夏がいてくれて気がまぎれるよ」
笑顔で言ってくださるから
「ありがとうございます」
私も笑顔になった。

おじいさまとの暮らしは穏やかそのもの。
すでに一線を退いて半分隠居のような生活を送るおじいさまと日長一日お客様の相手をしたり、庭を散策したり。
お屋敷のいたるところにおばあさまとの思い出があるらしく、おじいさまはいろんな話を聞かせてくださる。
私にとってそれは幸せな時間。記憶の中にすらいない母を知る時間だった。

「萌夏は皐月によく似ている。特に笑った顔がそっくりだ」
楽しそうに言うおじいさまだけれど、
「そうですか?」
私は首を傾げるしかない。

だって、母の笑った顔なんて見たことがないんだから。
写真の中でしか知らない母は、いつもどこか寂しそうだった。
穏やかなほほえみをたたえてはいるものの、笑顔ではなかった。
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