好きになってもいいですか? ~訳あり王子様は彼女の心を射止めたい~
「萌夏はずっと笑っていてくれ」
「おじいさま?」

「皐月の分まで、萌夏には幸せになってほしい。もう、この家の犠牲になる必要はない」

きっと、おじいさまは母さんのことを後悔している。
結婚を反対してしまったことで、寂しい最期を迎えることになったと思っているんだ。

「あとふた月もすれば喪が明ける。そうなったらもうここにいる必要はなくなる。萌夏は自由に生きればいい」

そっと手を握り、「ありがとう」とお礼を言ってくださるおじいさま。
私は涙をこらえることができなかった。

母さんだって、おじいさまとおばあさまのことが好きだったに違いない。
不幸な行き違いがあって悲しい決別をしてしまったけれど、お二人の幸せを最後まで祈っていたと思う。
できることなら私が、母さんの分までおじいさまに孝行したい。
おじいさまとおばあさまがいらしたから母さんがいて、私が今ここにいる。それは紛れもない事実だから。


トントン。
「創士です。お父さん、少しよろしいですか?」

朝から忙しく来客に追われていたはずのおじさまが、珍しく離れにやってきた。

「ああ、どうぞ」
穏やかな声で返事をするおじいさま。

私は邪魔にならないよう部屋を出ようとした。
しかし、

「萌夏ちゃんもここにいて。君にも話があるんだ」
おじさまに言われ、私はもう一度椅子に座った。
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