好きになってもいいですか? ~訳あり王子様は彼女の心を射止めたい~

父と父…賢介

「お忙しいところ、および立てしてすみません」
「いえ、お久しぶりです」

二十数年ぶりに会った男性に、俺は軽く頭を下げた。

いつか呼び出されるのだろうと思っていた。
その思いはあの日から消えることがない。
遥が生まれ、遥の母である『立花麗(たちばなうらら)』が亡くなった日、俺は心のどこかで覚悟をしていた。

「大きく、そして立派になりましたね」
「ええ」
きっと遥のことを言っているのだろうと相槌を打った。

親の目から見ても、遥はできた息子だと思う。
血のつながらない両親に育てられるという環境の中で、まっすぐ育ってくれた。
同い年の空の育児に陸仁が苦労しているのを見て、大きな反抗期を迎えることもなく成長する遥に物足りなさを感じることもあったが、自慢の息子であることに間違いはない。


「桜ノ宮のお母さんが亡くなった日、初めて遥くんに会って驚きました」

え?
俺は顔を上げ、正面に座る男性に目をやった。

「最初はマスクをしていて、その目元が麗そっくりで息をのみました」
「そう、ですか」
そりゃあ親子だから似ていて当然だろう。

「でも、マスクを外した口元と顎のラインは若いころの自分を見ているようで」
「・・・」
俺は言葉に詰まった。

目の前の彼、桜ノ宮創士は遥の父親。
遥の母親である麗は彼に妊娠を告げることなく出産し、遥の出産と引き換えに息を引き取った。
友人であった俺と琴子は麗の遺言で遥を引き取り育てることにした。
そのことを後悔するつもりはない。
ただ、

「あんなに立派に育てていただいて、ありがとうございます」
創士さんはテーブルにつくほど頭を下げた。

「・・・やめてください」

本当なら、「お前に礼を言われる覚えはない」と叫んでやりたい。
「遥は俺の子だと」怒鳴りたい。
でも、俺にはその資格がない。
< 146 / 176 >

この作品をシェア

pagetop