好きになってもいいですか? ~訳あり王子様は彼女の心を射止めたい~
都内の高級ホテルの一室。
立派な応接セットの置かれた部屋で、俺と創士さんは対面した。
呼び出されたのは俺で、場所も時間も指定され、正直断り切れずにやってきた。

「恨んでないんですか?」
心の中にあるわだかまりの一因を口にしてみる。

「いいえ」
創士さんはキッパリと答えた。


二十数年前、麗が妊娠したと聞かされて俺は少し説教をした。
子供の頃から家族ぐるみで付き合ってきた麗のことを妹のように思ってきた俺は「何で結婚もできないような相手の子を妊娠するんだ。無責任にもほどがある」と叱った。
もちろん麗が生むと言えば反対する気はなかったが、もろ手を挙げて喜んでやることはできなかった。

「私はどんなことがあってもこの子を産むわ。たとえ自分の命と引き換えになっても」
俺や両親の前で宣言した麗に随分大げさなことを言うなと笑ったが、その後麗の言葉が現実になってしまう。

検診のために言った病院で癌が見つかったのだ。
若いからこそ癌の進行も早くて、子供の命をとるか麗の治療をとるかの選択を迫られた。
普通だったらここで選ばれるべきは麗の命。
迷うはずもない状況なのに、麗は頑として譲らなかった。

「あいつは、ある意味過激な女でしたからね」
懐かしそうな顔をする創士さん。

「そうでしたね」
頑固で、強情な女性だった。
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