好きになってもいいですか? ~訳あり王子様は彼女の心を射止めたい~
家族になろう

2人の時間…礼

「いいお天気ね」
「ああ」

晩秋。
山の紅葉もすでに終わり観光客も少なくなった箱根の温泉街を、私は空と2人で歩いていた。

うちの社長と平石のおじさまの計らいでとった3連休。
仕事も少し落ち着いているし、空も大きな案件が一息ついたところらしくてすんなり休むことができた。

「温泉なんて久しぶりだな」
いつものスーツと違い綿のパンツとシャツの上にジャケットを羽織った空。

「私は初めて」
「え?」
やはり驚かれた。

「ほら、私の実家は両親が離婚しているし子供の頃にどこかへ行った記憶はないの。それに、大地を産んでそれ以降は子育て一筋だったじゃない」
家族で旅行なんて考える余裕もなかった。

「今度は大地も連れて三人で来ような」
「うん」

そういってくれる空の気持ちがうれしい。
今回の旅行だって「大地も連れて三人で行こう」と言ってくれたのは空の方だった。
たまたまうちの会社が協賛しているアニメのイベントと重なって、社長が「プレイベントに招待されているから大地も行くか?」と誘ってくれたから残してきたけれど、空は大地のことを本当に大切にしてくれる。

「そうだ。大地宿題をやったかしら?」

多少勉強ができるからって、宿題をさぼろうとする大地。
まだ三年生だから仕方がないのかもしれないけれど、声を掛けないと本当にしないんだから。

「ちゃんと俺が言ってきたから大丈夫だろう」
「そう」
ならいいけれど。

「気になるなら電話しとこうか?」
「ダメよ、社長もお母さまもまだ仕事中でしょ」

「はぁー」
一歩前を歩いていた空の足が止まって、私を振り返った。
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