好きになってもいいですか? ~訳あり王子様は彼女の心を射止めたい~
「萌夏さま、どこか痛いところはございませんか?」
支度をしてくれる女性が心配そうに顔を覗き込む。

「ええ、今のところは大丈夫です」
鏡に映る自分を見ながら不思議な気分でいた。

今日、私は桜の宮の娘として平石家に嫁ぐ。
娘とはっても創士おじさまの養女の扱いで、桜の宮萌夏として平石の家にお嫁に行く。
おばあさまが亡くなってからおじさまが色々と手配してくださって、やっと今日の日を迎えられた。
本当ならまだ喪が明けたばかりで祝事を行うのはよくないらしいけれど、そこもおじさまがうまく収めてくださった。

「髪も、時間があれば伸びるのを待ってご自分の髪で結えたらよかったのですが」
かつらをつけた私を見て、徳子さんが「葉月さまの時は地毛だったんですよ」と教えてくれる。

今日の婚礼は桜ノ宮の作法で行われる。
もちろん大々的な式にするつもりはないけれど、神式で、桜の宮縁の神社で、家族親族が集まった結婚式。
私は白無垢を着せてもらい、桜の宮の家で支度をしてお嫁に行く。

「お化粧が終わったら着付けをいたしますね」

普段はしないような真っ白な白粉を塗ってもらい、真っ赤な紅を唇に置いて首から上が出来上がった。
そのタイミングを見計らって着付け担当の女性が数人部屋に入ってきた。

さあ、これから着物を着る。
白無垢は重くて動きにくいし、着てしまえば自由は効かない。
少しずづ出来上がっていく自分の姿に、私は緊張していった。
< 162 / 176 >

この作品をシェア

pagetop