好きになってもいいですか? ~訳あり王子様は彼女の心を射止めたい~
向かった先はご先祖の祀られた部屋。
今からこの家を出る私はご先祖に手を合わせてお別れをするものらしい。

「大丈夫ですか?」
徳子さんの手を借りながら私は座布団に座る。

さすがに椅子に座るわけにはいかないけれど、着物を着て立ったり座ったりはかなりきつい。
昔の人はこんなものを着て暮らしていたなんて、本当にすごい。

ご先祖に手を合わせ体を起こすと、おじいさまとおじさまもやって来た。

「失礼するよ」
「はい」
私は短く返事だけ。

「おお、これは綺麗に支度ができたなあ」
おじいさまは満面の笑顔で褒めてくださる。

「本当に、萌夏ちゃん綺麗だよ」
創士おじさまもとてもうれしそう。

「萌夏さま」
徳子さんに促され、私は床に両手をついた。

「おじいさま、おじさま、短い間でしたけれどお世話になりました。そして、今日こうやって嫁がせていただけることを感謝しております」
溢れそうになる涙を必死にこらえて、深く頭を下げた。

「萌夏ちゃん、おめでとう。またいつでも顔を見せに来てくれ」
「はい、おじさま」

「萌夏、今までありがとう。おかげで月子を安らかに送り出せた。これからはお前が幸せになりなさい」
「おじいさま、また遊びに参ります」

自宅で支度をして、親せきや親しい人たちに見送られて家を出るのは昔からの風習。
この後は平石家からの使者が迎えに来て、式の行われる神社に向かう。
随分めんどくさい行事に見えるけれど、これが正式な嫁入りらしい。

「旦那様、平石家からのお迎えが参られました」
「はい」

「さあ萌夏、行こうか」

おじいさまに手を引かれ、私は立ち上がった。
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