好きになってもいいですか? ~訳あり王子様は彼女の心を射止めたい~
悪いのは私。
そんなことはわかっている。
でも頭に来て、逃げるように平石邸を飛び出した。

遥が器用な人間でないのは百も承知だ。
歯が浮くようなセリフを言ってもらおうとも思わないし、お金持ちの御曹司だからって贅沢させてもらいたいわけではない。
でも、少しは妬いてほしかった。

「なんか、バカみたい」
自分の不機嫌の原因にたどり着き、がっくりと肩を落とした。

平石家に住むようになって一年。
一人でないことにも、遥がそばにいる生活にも慣れてしまった。
幸せが当たり前になりすぎて、つい欲が出てしまったみたい。

「すみません、お嬢さん」

考え事をしながら歩いていると、急に後ろから声をかけられた。

え?
慌てて振り返ると初老の男性が一人立っていた。

「何か?」

見覚えのある顔ではないし、この近所に知り合いもいないはず。

「どうやら道に迷ったようでして、ここへ行く道を教えていただきたいのですが」
そう言って差し出された携帯。
「えっと、私もこのあたりには詳しくないのですが・・・」
言いながらも男性に近づき携帯を覗き込む。

その時、
後ろから人の気配。

あっ。
声を上げるよりも早く口に当てられたハンカチ。

次の瞬間目の前がかすんで、私は意識を手放した。
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