好きになってもいいですか? ~訳あり王子様は彼女の心を射止めたい~

喧嘩…遥

「ねえ、少しでも食べなさい」
最近あまりやかましく言うこともなかった母さんが、しつこく食事を勧めている。

「わかってるから」
まるで子供のように口答えする俺。

もしここに父さんがいれば注意されるんだろうが、今の俺はそんなことに気を遣う気分じゃない。
何しろ萌夏が行方不明になったんだから。

「携帯の電源は入っているんでしょ?」
「ええ」

携帯の電源が入っている以上位置情報を得ることは簡単なことのように思える。
調べればすぐにわかる気がするが、

「何かあったら困るから萌夏の携帯のセキュリティーを強化したばかりだったんです」

去年事件に巻き込まれその時いくらか顔も出てしまった萌夏のことを思い、かなり厳重なセキュリティーに変更した。
もちろん萌夏を守るための行動だったんだが、今回はそれが裏目に出てしまったようだ。

「個人情報を得るための手続きが複雑で、苦労しています」
セキュリティーを強化した分、個人情報も守られる格好になって位置情報を得ることもままならない。

「でも、萌夏ちゃんは無事なのよね?」
「おそらく」

もしも、萌夏自身に何かあれば携帯の電源は入らなくなると考えるのが普通だろう。
連れ去った犯人が萌夏の携帯を持って移動するとも思えないし、そんなものを持っていればすぐに捕まってしまう。一刻も早く処分したい物証のはずだ。

「とにかく、安否の確認だけでも取ってちょうだい」
「わかっています」

俺同様昨日から眠れていない母さんにも疲労の色が見える。
早くしないと、みんな倒れてしまいそうだ。
< 72 / 176 >

この作品をシェア

pagetop