好きになってもいいですか? ~訳あり王子様は彼女の心を射止めたい~
「今は遥にとっても非常事態なんだ」
「うん」
わかっている。

こんな時に力になれなくては秘書として失格。
それどころか、友達としても最悪だと思う。

「ちゃんと仕事できるか?」
「はい」
「仕事に支障が出るようなら、強行手段に出るぞ」
ギっと睨む目は本気の雪丸。

子供の頃から長い付き合いの私は、雪丸の怖さも知っている。
彼はやると言ったらやる。
遥や空とは別の意味で怖い。
今回の件だって、空の行動が遥の不利益になると判断すれば容赦しないはず。

「ごめんなさい。ちゃんと、します」
「ああ、そうしてくれ」
そう言うと、一つ肩を落とした。

雪丸は遥を恩人と思っている。
もちろんそれは私も同じだけれど、雪丸にとって遥は特別だから。

親もいなくて高校にも行けずフラフラしていた雪丸は、遥に出会って人生が変わった。
おばさまやおじさまに認められ、学費の援助を受けて、猛勉強の末に国立大に入り一流企業と言われる平石建設に就職した。
全て雪丸の実力に違いないけれど、遥との出会いがなければなかった人生。
それが分かっているからこそ、雪丸にとっての遥は絶対の存在。

「お前が誰を選ぼうととやかく言うつもりはない。ただし、はっきりしろ。フラフラするな。お前は大地の母親なんだからな」
「わかってます」

文句を言いたい気持ちも、言い返したい思いもあるけれど、今はやめておこう。
4歳も年下の極上御曹司とうまくいくはずないと思いながら、彼から目を離すことのできない私がいる。
全ては曖昧な態度の私が悪いんだ。
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