好きになってもいいですか? ~訳あり王子様は彼女の心を射止めたい~
毎日のように平石建設に行っているのは認める。
褒められた行動ではないとも思う。
それでも、与えられた仕事はすべてこなしている。
朝早く行って昼休みもとらずにきちんとやっているし、外出の時だって常に連絡はとれるようにしている。

「今ここで、誰が告げ口したのかが重要か?」
おじさんのあきれた顔。

「いいえ。しかし、」
悔しいじゃないか。
やるべきことはやっている。
仕事をしないことへの文句なら、もっと他に言うべき相手はいるはずだ。
年功序列で上がってきた取締役のじいさんたちは日中一日デスクに座っているだけだぞ。
となると、この話を持ち出したのは雪丸さんだろうか?
彼は遥の側近として常に側にいる。俺がチョロチョロとうろつけばきっと目障りだろうから。

「坂田じゃないぞ。あいつはそんなことを言う奴じゃない」

確かにそうかもしれない。俺だって仕事のサポートをすることはあっても、遥の邪魔をした覚えもないし。

「史也だ」
「ああぁー」

忘れていた。
HIRAISIの統括本部長。HIRAISIを影で動かす男。
三崎史也さんかあ。
彼なら苦言の一つぐらい言いそうだ。

「それで、どうなんだ?」

「えっと・・・与えられた仕事はしています。文句を言われる覚えはありません。しかし、」
「しかし?」
「最近HIRAISIにいないのは事実です」
「うちに入り浸っているって?」
「ええ、まあ」

「女性を追いかけることに熱心で仕事に身が入っていないのは、陸仁さんのご指導ですか?と抜かしたぞ」
「それはまた」
随分はっきりと言ってくれる。

とても三崎さんらしいが。

「まあ、史也の言うことも一理ある。空、仕事とプライベートの区別はわきまえろ。人から文句を言われないような行動をとれ。そもそも簡単に心のうちをさらけ出すんじゃない」

おじさんの息子のような存在としてHIRAISIに行ったからには、俺の評価はおじさんに帰ってくる。
それを自覚しろってことだろう。

「すみません、気を付けます」
俺は素直に頭を下げた。
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