信じてもらえないかもしれませんが… あなたを愛しています

 樹がふいに離れた。階下から真由美の声が聞こえる。

「彩夏さーん、お時間ですよー。」

 ベッドの上の彩夏を見下ろしたまま、樹は呆然としていた。
自分の行動に驚いたらしい。
正気に戻るのは、彩夏の方が早かった。

「今、行きます。」

もう一度洗面所で髪と口紅をサッと直すと部屋を出て行こうとした。

「待って。」

樹が腕を掴んだ。

「何時に仕事は終わる?」

「4時過ぎかしら…。」

「じゃあ。後で連絡する。5時ごろ待ち合わせしよう。」
「どうして?」
「ゆっくり…食事しながら話をしよう。」

連絡先の交換をして、二人は階下に降りた。

彩夏は胸の動悸が収まらないが、ここで弱気な所は見せられない。

「彩夏さん、朝食は簡単に包んでおきましたよ。
 大事な講演の前ですし、時間があれば召し上がって下さい。」
「ありがとう、真由美さん。あ、紹介していなかったわね。
 こちら、高畑雄一郎さんのお孫さんで、樹さんよ。」


「はあ…雄一郎様にはお世話になりましたけど…。」

胡散臭そうに真由美は樹を眺めていた。

「あ、主人から電話がありました。そろそろ、カンナが生みそうだって…。」
「そうなの?じゃあ、何かあったら連絡してって伝えてね。」
「分かりました。」
「行ってきます。」
「お気をつけて。シンポジウム頑張ってくださいね。」



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