信じてもらえないかもしれませんが… あなたを愛しています

 戸締りをして二階に上がると、樹は自然に彩夏の部屋に入ってきた。

「あなたのお部屋、一応隣の南向きに用意したけど…。」

樹は少し不満げだ。
「夜は一緒でいいだろう?」

何故、甘えた様に懇願するのか。

「ここ、セミダブルで狭いわよ…。」
「知ってる。」

樹は彩夏の頬に手を当てた。

「前、一緒に寝ただろ。」

一気に彩夏の顔が火照る。

「…お先にシャワーどうぞ。」
「ありがとう。」

 樹は自分の部屋から着替えを持って来て、洗面所に入って行った。
水音が聞こえるが、それ以上に彩夏の胸の音の方が大きかった。
手持ち無沙汰な待ち時間を、カーテンを閉めたりシーツを引っ張ったりして
ウロウロしながら過ごした。じっとなどしていられない。

「お先に。」

まだ少し髪が濡れたまま、樹が洗面所から出てきた。
余程急いだのだろう。手にタオルを持って拭きながら出てきた様だ。

「濡れてるわ。乾かさないと、また風邪ひいちゃう。」
彩夏はドライヤーを手にし、樹をベッドの端に座らせた。

「今回倒れた原因は、風邪を拗らせたんでしょ、気をつけないと…。」
ドライヤーの風と手櫛で樹の髪を乾かしながら、ブツブツ言ってしまった。

『口煩いと思われたかしら…』

言った後で、彩夏はドキッとしたが、樹は逆に嬉しそうだった。

「この前、弟に言われたんだ。奥さんに健康管理して貰えって。
 こういう事かあ…。」
「弟さん?」
「ああ、離婚した時、俺は父の…いや祖父に引き取られたが、
 弟の祥は母が連れて行ったんだ。」

「そう…離れて、淋しかったわね。」

淋しい…自分は淋しかったのか…。
漸く、あの時の気持ちに向き合えた気がした。
誰にも言えなかった、母に振り向いて貰えなかった時のあの気持ち。

「さ、出来た。これで大丈夫。」

ドライヤーを置いた彩夏の手を樹は握った。
樹の横に座っていた彩夏をそっと抱きしめた。

「俺を置いて行くな…。」

「樹さん…。」


ああ、この人は…

私と同じだ。家族に突然去られる苦しみや悲しみを味わった人なんだ。


「大丈夫。…ここにいるよ。」


その夜は、二人で寄り添って眠った。



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