信じてもらえないかもしれませんが… あなたを愛しています

 7月の北海道は美しい。
蒸し暑い本州と違って、カラリと晴れた晴天が続く。朝晩は涼しいくらいだ。
ジャガイモやラベンダーの花も見頃を迎えている。
牧場の緑も輝く季節だ。

 樹はのんびりと毎日を過ごしていた。
彩夏には仕事があるが、それでも大学は夏休みに入ったし、いつもに比べたら
充分時間がある。朝夕は二人で散歩するのが日課になった。
少し足を延ばして、樹の祖父が利用していた別荘も見に行った。
管理人が手入れしていたからさほど痛んでいない。
宿泊施設として利用できる広さもある。リフォームは簡単な工事で済みそうだ。


「少し、お仕事から離れた方がいいんじゃない?」

「いや…離れすぎた方が調子が悪いんだ。」
「仕事中毒?」
「ははっ…確かに。」

 これまでの年月を埋めるように、時間が許す限り二人は一緒に過ごした。
それこそ、朝起きて眠るまで一緒だ。
会話しながら食事を楽しんだり、手を繋いで散歩したり…
何処から見ても仲睦まじい夫婦に見える。
樹の体調が良ければ動物たちの世話をするスタッフに混ざったりした。
同じ10年を過ごしたとしても、ここまで密度の濃い時間が持てただろうか。
そんな二人を久保田夫妻も暖かく見守ってくれていた。

 勿論、心と共に身体も寄り添っていた。
樹は時間があれば彩夏を求めてきた。初日こそ寄り添って眠っただけだったが、
体調を心配するほど、彼は積極的だった。
気恥ずかしさもあったが、慣れというのは恐ろしい。
わずか数日で、彩夏は樹の肌に馴染んでしまった。

 ある時など、樹の部屋の籐椅子に座ったまま求められ
まだ明るいからと抵抗したにも関わらす、彼の愛撫に流されてしまった。
思い出しても顔が火照る。

 樹はやはり避妊していない。その事について、彩夏は何も聞かなかった。
別れる事だけを思いつめていた頃と違って、樹が好ましいのだ。
彼の子が欲しいと真剣に思えるほどに。
これだけ抱かれていれば、自然に子供を授かる事が出来るかも知れない。
彩夏はいつも祈っていた。

『赤ちゃんが出来ますように。』

その気持ちを、まだ樹には伝えていなかった。



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