信じてもらえないかもしれませんが… あなたを愛しています

 それから一週間、彩夏は病院で過ごした。
妊娠のせいかもしれないが、体調は回復せず気力も無かった。
ただ、ぼんやりと考え事をしながら一日一日を過ごした。
こんなに何もせずに過ごしたのは初めてかもしれない。

 力なく過ごす彩夏を、綾音達は心配して連日のように見舞いに訪れた。
だが、いつもより精彩を欠いた彩夏を見るのは辛かった。
何て声を掛ければいいのか、綾音にも真由美にも判らなかった。
妊娠は喜ばしい事なのだが、樹との関係に誰も踏み込めずにいた。



 病室のレースのカーテンが少し開けた窓からの風で揺れている。 
短い眠りから目覚めると、病室には誰もいなかった。
彩夏は独りだ。今更のように思い知った。

 家族はとうにいなくなった。
友人、知人、牧場の仲間…大勢の人が周りに居てくれるが
こんな日は独りきりの人生なんだと痛感する。

 祖父は、彩夏が独りにならないように樹との結婚を望んでくれたのに…。
申し訳なさで胸が一杯になった。

 今さら、スキャンダルの真偽はどうでも良かった。
これまでだって何度もあった事だ。
あんな記事になる様な事を多かれ少なかれ彼はしたのだろう。
ただ今回は信じようとしただけに、余計に辛い。

幸せは、ある日突然消え去るものだと解っていた筈なのに…

でも、いつまでもこのままではダメになる。
子供の事を一番に考えなくては。

 少しづつ、気力が戻ってくるように感じた。
たとえ樹を恨む負のエネルギーが源だとしても、立ち上がろう。

ベッドから出て、窓辺まで歩いてみた。膝が震えるが、歩けた。

窓の外はもう、秋の気配がする…。


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