信じてもらえないかもしれませんが… あなたを愛しています

「坊ちゃまの事、私が彩夏さんからすべてを聞いておりましたのに、
 社長にお伝えしませんでした。申し訳ございません。」

江本はもう何度目かわからない謝罪の言葉を口にした。

 取り敢えずこの二年間の彩夏について知らなければと、樹は江本と真由美から話を聞いた。
妊娠がわかった時期。長谷川綾音に助けられ、利尻島に身を寄せた事。
出産後は温泉街で働いている事…。もたらされる情報に、樹は混乱した。
きっかけはあのスキャンダルの様だった。樹が気にも留めなかった噂が、
そこまで彩夏を傷つけていたとは思いもしなかった。
ただ、彩夏が独りで出産し独りで育てる覚悟だった事は伝わってきた。

樹の胸の中は怒りや悲しみで渦巻いていた。

『どうして、どうして、どうして…』

どんなに悔いても、過去の自分の行いのせいだ。

大切にしようと決心したはずだったのに…
10年分の罪滅ぼしをしようと決心したはずなのに…

何度もあったチャンスを自ら潰してしまったのだ。
 

 後悔で押しつぶされそうになり、もう一度、ギュッと駆を抱きしめた。
駆の小さな手が、ペチペチと樹の頬を叩く。
痛くはないが、我が子にも責められている気がした。

「ごめんな…駆…ダメなパパでごめんな…。」

父子を囲んで、皆が静に涙を流していた。


< 70 / 77 >

この作品をシェア

pagetop