オスの家政夫、拾いました。0. プロローグ
理央と別れ、彩響は暗い道を歩いてマンションへ戻った。当たり前な話だけど、家は相変わらず汚いまま。玄関から散らかっているゴミに触れないようにリビングまで来て、そのまま電気もつけずソファーの上に倒れる。元彼が出ていったその日から、この家はもっともっと状態が悪化していた。
「…知ってるよ。このままじゃいけないってことは」
15歳から各種アルバイトを始め、この瞬間まで稼き続けた。自分にはのんびり家事をやっている暇なんかない。男だらけの会社で生存するには、他の男の10倍以上の努力が必要だ。その事実に早く気がついて、目が覚めたら会社、家に帰ってきたらそのまま死んだように寝る日々を繰り返してきた。
しかし、認めたくなくても…今自分の家は自分の状況そのままを表している。いつも疲れて、特にやる気もなく、ただただマンションのローンを返すため必死で稼いでいる独身女性。
もし自分が男だったら――
仕事を頑張っている普通のサラリーマンとして、帰宅して、なにもしなくても、攻められたりしなかっただろうか。料理とか洗濯とかしなくても普通に結婚して、奥さんが作ってくれる料理を食べて、子供が生まれても理央みたいにキャリアが終わる心配もなく、こんなにも「女」としての役名をうんぬん言われなくても普通にいられる…。
(今何時だろう。そろそろ明日の準備しないと…)